『残酷な神が支配する』
萩尾望都の「残酷な神が支配する」の感想です。名作といわれ、検索してみたところ賞賛の声が多く、あまりツッコミを入れている人がいなかったので、私が物足りないと思っている部分を書いてみます。もちろん、解読力不足も相当あると思いますが(汗)ネタバレありなので、未読の方は注意してください。
あらすじを書くと、母親の再婚相手から性的虐待を受ける少年の物語です。たしかに重い話ではありませすが、父親・母親のどちらにも「親の視点」が完全にスッポ抜けており、読んでいてイライラしっぱなしでした。
配偶者の死後、女手ひとつで子供を育ててきた人(サンドラ)が、ふとしたきっかけで知り合った妻に先立たれた男性(グレッグ)の身分に目がくらんで結婚をもくろむ・・・しかし、その男との結婚が破談になりかけると、子供(ジェルミ)が同じ家のなかにいるにもかかわらず、ガス自殺を図ります。
恐ろしいのは「本当は死ぬ気がないけど、ジェルミが発見してくれるだろう」と、彼女が狂言自殺をしたようにしか見えないことです。彼女の狡猾さをもってすれば、「結婚を反対している息子の説得」と「再婚をためらっている男の背中を押す」ことなど、たやすいものだったのでは、とさえ思えます。そもそも知り合って1週間やそこらで「結婚しよう」「やはり結婚できない」と、コロコロ考えが変わる男なんかまっひらだわ、と考えないサンドラが不思議です。子供よりも男が大事、という母親いますよね。彼女もそういうタイプなんでしょう。
主人公(ジェルミ)の性格を見ていると、とてもしっかりした親に育てられているな~と思うのに、上記に書いたとおりサンドラときたら、グレッグに振りまわれさていつもオロオロするばかりで、自分の子供がグレッグに虐待されていることにまるで気づかず。いや、グレッグとジェルミのただならぬ関係には気づいていたのかもしれませんが、貧乏生活に戻るぐらいなら・・・と天秤にかけて、知らん振りを決め込んでいたようにも思えます。働くの好きじゃなさそうだったし。
感情移入できないのは、登場人物たちの「恋愛感情」があまり伝わってこないことが大きな原因だと思います。登場人物の性格付けがあまりできていないまま、物語だけが勝手に進行していくというか。だいたい、臨月の妊婦さんが夫に「死ね」と言われて、素直に自殺するでしょうか。子供を連れて、家出する気概さえなかったのでしょうか。自分が死んでしまえば、いくら血がつながった親子とはいえ、悪魔のような夫が子供に何をするかわからないのに・・・「お前なんか、こっちから捨ててやるわ!!あばよ!」と捨て台詞を残して、さっさと家を出ればいいのに。人に依存してばかりいないで、少しは自立しましょうよ。
おまけに実妹(グレッグの妻)の死後、待ってましたとばかりに義弟(グレッグ)と関係を持つナターシャの神経も理解できません。
自分から災いのなかに身を投じて、悲劇のヒロインになってしまうタイプなんでしょうね。
グレッグがなぜ虐待をするようになったのか、その理由も曖昧で、彼がまったくの悪人として描かれているのが残念です。たとえば虐待するきっかけになったことなど、過去のトラウマをフラッシュバックで見せるなり、1章だけでもグレッグの過去にもう少し踏み込んで描かれていれば、少しは感情移入も理解もしやすかったのですが・・・読者の想像に任せるというところでしょうか。
この点は同じく虐待をテーマにした日本映画「愛を乞う人」によく似ています(ただこちらの場合は、結婚前の母親の様子を見るとかなり自暴自棄になっているので、少なくとも周囲に理解者がいなかっであろうことが推測できます)
長くなりましたが、単なる批判ではなく、いい作品だからこそもう少し踏み込んでくれたらなぁ、という気持ちが大きいです。たとえば幸いにも自分が虐待とは無縁の生活を送っていて、あくまでも「物語」として読んでいくのと、自分や周囲を含めて虐待を経験した上で読むのとでは、だいぶ捉え方が違ってくるでしょう。場合によっては、グレッグが天使のように思えるかもしれません。
いま「彼氏彼女の事情」を読み始めています。こちらも主人公のひとりである少年の辛い過去が描かれているそうですが、まだまだ先になると思いますが、そのうち感想を書く予定です。 【管理人】
正統派の「残酷な神が支配する」レビューをご覧になりたい方は、堀川成美さんの「名作マンガを語る会」がおススメです。
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