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宇宙の根源性と人間の使命ーー闇の夜に鳴かぬ烏の声を聞いたとき

以下の文章は、「闇の夜に鳴かぬ烏の声聞けば、生まれぬ先の親ぞ恋しきーー中村天風試論」からの抜粋である。宇宙の根源性だけをその草稿から抜き出した。

 

2. 人間的自然と宇宙

2.1 闇の夜に鳴かぬ烏の声

  「闇の夜に鳴かぬ烏の声聞けば、生まれぬ先の親ぞ恋しき」という有名な詩歌は、一休宗純(13941481年)によって作成された、とみなされている。この解釈は古来より多々あるであろう。中村天風もまた、この和歌を講演、訓話等で引用していた。[1] 本節では以下のように解釈したい。私という一回かぎりの生を現生に送り出したもの、闇の奥にあるものが存在しており、その声が聞こえるはずだ。私もたまに、聞こえるような気もするが、どうであろう。少なくとも、その声を聞こうとしている。

 鳴かぬ烏の声とは何か。私という人格を送り出し根源的なものとは何か。私に何を託そうとしているのか。宇宙が進化するか、否かはわからないが、何かをするためにここにいることは、間違いないであろう。私がここに存在している究極の根拠が問われている。その根源的なものに関して考察してみよう。人間あるいは人類の歴史に関して、どのような寄与ができるのであろうか。

 

2.4 宇宙の進歩

 もちろん、宇宙が進歩しているかどうかに関して異論はある。宇宙には進歩という概念がないという宇宙観もまた、真理である。もちろん、宇宙が固定的ではなく、流動的であるという断定に異論はない。しかし、その流動性に進歩があるか、否かに関してはわからない。数千年における人間の歴史という尺度において、果たして宇宙には進歩がないかもしれない。「循環=繰り返しには『進歩』がない。・・・田舎(農業)は、この大自然の『永遠の循環』『進歩なき繰り返し』と共にあるべきものである」。[2] 進化あるいは進歩は自然において存在しない。中島正はこのような東洋的宇宙観に基づき、その思想を形成している。中村天風の宇宙観は、中島正の宇宙観から区別されている。しかし、どちらの宇宙観が正当であるかは、時間的尺度の差異に基づき決定される。中村天風は数億年単位で、中島正は数千年単位で宇宙を考察している。また、前者は惑星を含めた宇宙総体に基づき宇宙を考察していることと対照的に、後者は地球総体に基づき宇宙を考察している。

 

3.  道具としての肉体と精神

3.1 人間の本質

 中村天風の宇宙観によれば、生命体を含む物質の根源は素粒子である。したがって、自己の本質は、肉体でもなければ、精神でもない。「自己それ自身と自分のpossess (所有物)とはちがうはずだもの。体や心は自分ではない。自分というこの気体である真我の本質が、現象界にある生命活動をするために必要とする道具なんですよ」。[3] 心すら、自己の本質とは別物である。精神至上主義が否定されている。気体である真我の本質が、自己の精神と肉体を統御する。宇宙の本質としての気体と個人が一体になることによって、精神と肉体の欲求すらも統御できる。真我は心ではない。

 しかし、多くの知識人は、精神と肉体の虜になっている。自己の本質ではない精神と肉体の欲求を制御できない。真我が現れなくなっている。精神も肉体も真我の声を聴くことができない。個別的個人としての私の存在意義を理解できなくなっている。

 

3.2 宇宙霊と自然的人間

 この認識に基づくかぎり、これ以後は一瀉千里である。[4] 「わが生命は宇宙霊の生命と通じている。宇宙霊の生命は無限である」。[5] 宇宙霊と人間の精神が同一化される状況へと自己の精神を方向づけるだけである。「人間は、恒に宇宙原則に即応して、この世の中の進化と向上とを現実化するという、厳粛な使命をもってこの世に生まれて来た」。[6] 宇宙の進化と感応する人間的精神の目的が、明瞭に述べられている。

 ある時、田村伊知朗はこの宇宙霊と交感する機会を得た。2019年から2022年にかけてである。今現在、取り組んでいる労作を仕上げることの意味を長年、考えてきた。現在の課題を認識して、一歩踏み出そうとしている方向性が明瞭になったときである。この瞬間は必ずしも、中村天風の思想における現在ではない。なぜ、この一歩を歩みだそうとしているのか、何が人間の背中を押し、特定の方向へと自己を向けるのか、その根拠を問うことから始まった。暗黒の宇宙が一瞬であるが、眼前に現れた。闇の夜に鳴かぬ烏の声が、聞こえたような気がした。

 

 

[1] 中村天風『心を磨く』PHP研究所、2018年、61-64頁、340頁参照。森本暢『実録 中村天風先生 人生を語る』南雲堂フェニックス、2004年、201頁参照。

[2] 中島正『都市を滅ぼせ 人類を救う最後の選択』舞字社、1994年、49頁。

[3] 中村天風『心を磨く』PHP研究所、2018年、47頁。

[4] 中村天風は、『叡智のひびき』においてプランク定数hに実在するエネルギー源泉としてヴリル(Vril)という概念を用いている。この概念がプランクの作用量子論におけるどの概念に該当するのかは、不明である。別の論稿においてこの概念は宇宙ではなく、その現象界における人間的自然の活力として考察されている。中村天風『叡智のひびき』講談社、72; 中村天風『真人生の探究』天風会、1994年、195頁参照。

[5] 中村天風『運命を拓く』講談社、1998年、146頁。

[6] 中村天風『真人生の探究』天風会、1994年、42頁。

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