密告(チンコロ、タレコミ)に対する儒教の論理と人間の共同性――業田良家「シャルルの男」『独裁君』
20140525 密告(チンコロ、タレコミ)に対する儒教の論理と人間の共同性――業田良家「シャルルの男」『独裁君』
20190510 追記
1、50年前の西日本ではチンコロという日常用語を、一般人でもよく使用していた。しかし、タレコミに比べて、東日本そして21世紀ではかなり廃れているようである。タレコミと併記する。
2、 密告を奨励する組織がある。組織として、密告を奨励することは、内部で問題を解決する能力がない。北朝鮮と同様に、日本国政府がセクハラ、パワハラを組織上部に密告を奨励している。しかし、これを奨励するする組織において人間的交流は期待できない。できるかぎり、かかわらないことを肝に銘じておこう。この組織は、北朝鮮の社会制度と同じである。そして、同僚、上司を陥れようとすれば、この制度を利用して虚偽の事態を、組織上部に密告すればよい。
そのような組織をよくしようとはおもわない。Scheiße egal, dieses Institut! Fleihen Sie sofort aus ihm !
(クリックすると、画像が拡大されます)。
『論語』(子路第13、320)に以下のような言葉がある。
「葉公語孔子曰。吾党有直躬者。其父攘羊。而子證之。孔子曰。吾党之直者異於是。父為子隠。子為父隠す。直在其中矣」。(葉公、孔子に語りて曰わく、吾が党に直躬なる者あり。其の父、羊を攘む。而して子、これを証せり。孔子曰わく、吾が党の直き者は是に異なり。父は子の為めに隠し、子は父の為に隠す。直きこと其の中にあり)。
宮崎市定『現代語訳 論語』岩波書店、2000年、214-215頁。
(田村による)意訳
「父が羊を盗んだ。子は父の行為を政治的支配者に密告した。政治的支配者は、その行為を正直であるとした。それに対して、孔子は、父子は相互に匿うべきである。それが正直である。人間的である」。
儒教は、第一次集団的関係たとえば家族及び氏族に基づいて、そして社会総体に至るという同心円的な位階制構造を有している。家族主義的国家観も儒教に基づいているとされている。しかし、その基本は、人間が直接的関係を結べる家族あるいは親族間の関係である。人間そして動物が結ぶ直接的関係が、社会構造の基本になる。問題は、社会的規範と家族的規範が矛盾する場合である。儒教の論理は、前者に対する後者の優位にある。
北朝鮮つまり朝鮮民主主義人民共和国が儒教国家であるという説がある。しかし、それは当てはまらない。儒教の論理、人間の直接的関係を優先すべきであるという論理は、崩壊しているのだろう。すべては金正日、金正恩同志のためという論理構造において、家族関係よりも政治的支配層の意思が優先されている。「金正日様、あなたなしでは生きてゆけない」という歌は、著名である。ここでは、金正日が父親、あるいは配偶者に擬されている。
金正日と現実的父親の意思が同一であれば、問題ない。しかし、両者の意思が分離するとき、子供は金正日つまり政治的な父親の意思を優先する。この矛盾を業田は示した。ある共同体の論理よりもより上位の共同体が優先されるとき、密告(チンコロ、タレコミ)が奨励される。密告(チンコロ、タレコミ)が奨励される社会は、もはや人間的社会とは言えない。少なくとも、密告(チンコロ、タレコミ)を優先する社会は、共同体とは言えない。密告(チンコロ、タレコミ)と共同性とは、相容れない。人間はより直接的関係を重視すべきである。業田良家はこの意味を明確にした。
業田良家「シャルルの男」業田良家『独裁君』小学館、2008年、114-115頁。
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