地域学研究の必要性
西欧において欧州共同体が形成された。国民国家を超えた地域としての西欧そして現在では欧州という地域概念が形成された。最近、英国がこの共同体から脱退することを表明したが、この意義が消滅したわけではない。また、大きな地域だけではなく、小さな地域も考察対象になった。国民国家の比重が低下したなかで、特定の都市あるいは農村の意義が向上したからである。
このような状況のなかで地域学が、この数十年の間に学問としての社会的認知力を向上させた。少なくとも、50年前にはこのような学問が隆盛するとは思われていなかった。もちろん、第二次世界大戦前には国民国家に対して過重な意義付けを与えようとした地政学があった。本邦でもその歴史的意義は大きかった。しかし、地政学はドイツ・ナチズムあるいはソ連・スターリン主義と結びついていたので、地域学は地政学とは異なる水準で戦後新たに構想された。それは、地域学に関する学会の生成過程においても検証される。
ドイツにおいては、現在「空間研究と国土計画に対するアカデミー」(Akademie für Raumforschung und Landesplanung)がある。このアカデミーは、1935年に創設された「空間秩序に対する帝国研究連合体」( Reichsarbeitsgemeinschaft für Raumordnung)の後継団体としての色彩を持っていた。地政学的学問を継承していると言えなくもない。人的継承関係はあった。新たな学問を無から創造することはできないからだ。戦後すぐさま新規に創設されたこのアカデミーは、旧西独において国家的認証を受けた。
欧州共同体の展開過程において、あるいは後期近代という時代精神においてこの学会の意義は増大した。 このアカデミーは『空間研究と空間秩序』(Raumforschung u. Raumordnung)という機関紙を発行している。1
1 Vgl. Akademie für Raumforschung und Landesplanung – Leibniz-Forum für Raumwissenschaften. In:
« 参議院選挙の争点隠しーー改憲勢力の現実化ーー「支持政党なし」の意義 | トップページ | 東西ドイツの統一過程における公共交通と公共性に対する市民意識――ハレ市・ハイデ北への路面電車の延伸計画とその挫折過程に関する考察(二) »
「公共交通原論」カテゴリの記事
- 田村伊知朗への連絡方法ーーコメント欄へ(2022.10.06)
- 近代思想史という学問――近代交通思想史という学問の構築ーー近代政治思想史と近代社会思想史(2021.05.13)
- 「北海道新幹線・新函館北斗駅をめぐる政治思想」に関する講演会(2020.07.22)
- 道路交通による自然環境と人間的自然に対する否定的作用――ドイツにおけるその具体的様態に関する考察 (2020.06.20)
- Die negativen Auswirkungen des motorisierten individuellen Verkehrs (2020.06.12)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント