美味しんぼ問題における風評問題ーー批判する側の錯誤と風評
20140525 美味しんぼ問題における中間考察
この問題の中核的問題の一つが、学術的厳密性である。この漫画を非難する人も、東京電力株式会社福島第一原子力発電所周辺で鼻血が多いという統計的有意味性を認めている。問題は、この肉体における症状と放射線との因果関係が厳密に科学的に証明されていないという事実にある。 たとえば、安倍総理の「東京電力福島第一原子力発電所は完全に制御されている」という命題を考察してみよう。現在でも、原発周辺の放射能の値は高い。汚染水は海に垂れ流されている。おそらく、この命題も安倍総理の言葉を借りるならば、風評被害をもたらしている。この言説を信じて、東京電力株式会社福島第一原子力発電所周辺の魚を食べたものは、どのようになるのであろうか。 ここでは、風評被害という曖昧な概念は用いない。この安倍総理の命題は、錯誤を含んでいるというだけである。撤回しろと強要されることはない。森まさこ・内閣府特命担当大臣(自由民主党)の言説も風評被害をもたらすのであろうか。 1
また、双葉町で実施された疫学的調査でも鼻血が、他の地域に比べてかなり多いという結果を示している。鼻血と放射線障害との関連が指摘されている。それを否定する根拠もない。 2
厳密科学的に証明されないかぎり、どの言説も風評被害をもたらすというのであれば、すべての言説が風評被害をもたらす。「夢は実現される」という命題もまた、風評被害をもたらす。たいていの夢は実現されない。少なくとも、体験からすればそうである。ある人は、美術家として研鑽を積んでいるようだ。個展も数回開催している。しかし、この知人の生活水準は、保護世帯と同様だそうである。おそらく、60歳を超えているのであろう。このような事例は、身辺で見聞きする。 もっとも、この命題を信じて、美術家になろうとしたのではないであろうが・・・。
また、ある左翼活動家は、月に10万円程度で生活しているそうである。大学、少なくとも日本人ならば誰でも知っている大学に入学した。しかし、彼の収入も非課税世帯のそれに属している。彼は、今でも、共産主義革命を信奉しているようである。まさに、夢を追っている。「夢は実現される」のであろうか。
この命題は、風評被害の元凶とはみなされない。このような馬鹿の言説を信じた者の自己責任であろう。しかし、もし彼の親族であれば、この命題を吹聴した人間を風評被害の被告とみなしたくなるかもしれない。
注 1
「第180回国会 東日本大震災復興特別委員会 第8号平成24年6月14日」議事録
http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/sangiin/180/0152/18006140152008a.html [Datum: 25.05.2014]
「森まさこ君・・・・、残念ながら、大臣は東京電力に裁判してくださいということでした。それですと、被害者の方が、子どもたちの方が、この病気は原発事故によるものなんですよということを立証しなければいけない。これはほとんど無理でございます。そういったことがないように、この法律で守っていくものというふうに私は理解しています。例えば、具体的にこんな心配の声をお寄せいただいています。子どもが鼻血を出した、これは被ばくによる影響じゃないかと心配なんだけれども、それを診察してもらった」
2
「双葉町、丸森町両地区で、多変量解析において木之本町よりも有意に多かったのは体がだるい、頭痛、めまい、目のかすみ、鼻血、吐き気、疲れやすいなどの症状であり、鼻血に関して両地区とも高いオッズ比を示した。平成23 年3 月11 日以降発症した病気も双葉町では多く(オッズ比10 以上だけでも、肥満、うつ病やその他のこころの病気、ぜんそく、胃・十二指腸の病気、その他の皮膚の病気)、両地区とも木之本町より多かったのは、狭心症・心筋梗塞、急性鼻咽頭炎(かぜ)、アレルギー性鼻炎、その他の消化器系の病気、の他の皮膚の病気、痛風、腰痛であった」
「低レベル放射線曝露と自覚症状・疾病罹患の関連に関する疫学調査 -調査対象地域3町での比較と双葉町住民内での比較」9-10頁
http://www.saflan.jp/wp-content/uploads/47617c7eef782d8bf8b74f48f6c53acb.pdf
[Datum: 25.05.2014]
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