官僚機構における書類改竄――書類至上主義という病理
20131209 書類至上主義という病理――下部組織における書類改竄に関する政治学的考察
官僚機構において、しばしば下部組織は上部組織に挙げる書類を改竄する。この書類改竄の第一の目的は、義務を持っている労働者が責任を逃れることである。現実態とは異なる事実を記載することによって、降格、解雇さらに刑事訴追等から下部組織は逃れる。労働者の現在の地位と賃金は、安泰である。
第二に、現状維持という安泰感は、それ以上の安楽をもたらす。それは、書類至上主義と言われる病理と関連している。この用語は私の造語である。現実における危機を現実態においてではなく、書類の上で解消する。当然のことながら、現実態において危機は残存している。しかし、書類を作成する下部組織は、それによって自己満足に陥る。危機は去ったと。上部組織もそれについて気が付いている。気が付かない上部組織は馬鹿である。しかし、気が付いていて、それを黙過する上部組織はなお馬鹿である。
この書類至上主義は、旧ソ連末期における書類上の食糧の確保と現実態における食糧危機と相似している。毎日のように、ゴルバチョフ・ソ連共産党書記長のもとに資料が下部組織、各連邦共和国から上がってくる。それによれば、旧ソ連では十分すぎる食糧があった。輸出も可能であった。しかし、街の食料品店では、長蛇の列が食料を求めて形成されていた。食糧の緊急輸入が常態化していた。ソ連住民には、十分な食料が供給されていなかった。食糧危機が蔓延していた。ゴルバチョフ・ソ連共産党書記長は、書類を見る気力を喪失したはずである。書類上、ソ連は安泰であった。しかし、現実態において前世紀末にソビエト連邦共和国自体、そしてソ連共産党が崩壊した。
官僚集団あるいは官僚化した組織は、この病理に多かれ少なかれ侵されている。その危機を回避できる集団的健全性が求められている。
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