重層的決定機構における最下部組織――新学部構想をめぐる国立大学法人における学部と、役員会及び文部科学省との関係
20120526 重層的決定機構における最下部組織――新学部構想をめぐる国立大学法人における学部と、役員会及び文部科学省との関係
香川大学を初め、多くの国立大学において新学部が構想されている。単科大学よりも、複数学部化された大学のほうが大学の理念に近接する。学部という選択肢が多様であればあるほど、大学、つまり総合大学に近くなる。数十年前の香川大学は、農学部、経済学部、教育学部からなる地方大学にすぎなかった。一期校と二期校があった当時は、この大学は典型的な二期校であった。まさに、戦後数多く設立された駅弁大学と揶揄される大学であった。しかし、この十数年で、法学部、医学部、工学部という近代大学にとって不可欠の学部を設立した。まさに、将来構想されている道州制の首都、高松に樹立される総合大学として相応しい大学になった。まさに、香川大学は新学部を複数設立することによって総合大学になった。
ここで香川大学の事例を離れて、新学部一般について考えてみよう。新学部が出来れば、既存の学部の改編が不可避になる。新学部の構成員がすべて新規採用人事であるはずはない。もし、そうであれば、大学教員の数が増えるだけであり、国家公務員の数が増えるだけである。もっとも、国立大学法人は独立行政法人であり、そこでの労働者は国家公務員ではない。しかし、その経営には多額の税金、運営交付金が投入されており、国家の意向と無関係ではない。国家公務員の数は減少させるが、独立行政法人の労働者の数を増大させるのであれば、国民的合意は得られない。既存学部の教員の移動を前提にしている。
この移動に際して、個々の教員にとって多くの場合、仕事が増えると意識される。新しい学部で、その学部に応じた新しい科目を担当しなければならない。また、人員も既存の複数の学部から導入されるので、新しい人間関係が形成される。また、講義以外の業務も新たに形成される。それにもかかわらず、給料が増えることはほとんどないであろう。さらに、自分のこれまでの専門とは異なる名称の講義も担当しなければならない。自己保身の論理が高まる。
そうであれば、大学上層部、つまり役員会によって推進される新学部構想に対して、既存学部の教員が反対することもある。とりわけ、法人化される前の国立大学教授会の権限は強大であった。その伝統が強い学部では、反対運動が起こることは容易に想像できる。しかし、大学教授は労働者にすぎない。労働者が経営方針に異を唱えることも、言論の自由があるかぎり問題ないであろう。しかし、労働者は労働者であることによって、その新学部設立の必然性を理解しているとは言い難い。多くの教授は、新学部設立が大学役員会によって恣意的になされていると誤解している。しかし、新学部設立は文科省によって領導されている。国立大学が新学部を設立するのは、文部科学省の方針である。改革という標語は少なくとも、近年の行財政改革という方針から必然的に導出されている。
しかし、労働者教授は文部科学省の了解抜きにその方針が役員会から出ていると考えている。それは、労働者の視野の矮小性を表現している。地方大学教授会は、文部科学省に論戦を挑むべきであろうか。そのような覚悟をもって、文部科学省と一戦交えることを想定しているのであろうか。多くの教授がそのような気概を保持しているとは思えない。自らの保身が大きな役割を占めている。
(20120430 「分を弁える」の改稿)
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