官庁等への提言書の意義づけ及びその書き方(その三)ーー抽象的関心と提言の具体性
官庁等への提言書の意義づけ及びその書き方(その三)ーー抽象的関心と提言の具体性
2012年6月21日 田村伊知朗
1.「世界観の提示」
提言は、抽象的内容と具体的内容の二つの異なる領域から構成される。抽象的内容は、提言の具体性が、大きな問題たとえば近代の時代認識とどのように関連しているかを提示する。どのような小さな問題であれ、その時代のより普遍的問題と関連している。あるいは、地域の緊急の問題と関連している。
より大きな視点がないかぎり、小さな問題の意味を万人が理解することは不可能である。なぜ、これまで着目されてこなかった問題を今設定しようとするのか。この意識が抽象的問題と関連する。それは、提言者の世界観を表現している。世界における無数の問題から、なぜこの問題を選択するのかが問われている。
このような視点は、民間会社における提言書には必要ないとみなされている。究極的にいえば、営利企業におけるこの根拠づけは簡単明瞭であるからだ。つまり、利益の確保である。一言でいえば、銭である。
2.「具体的提言」
提言はより具体的でなければならない。地方行政担当者が理解できることが前提である。抽象的な議論に対する理解を求める必要はない。地方官僚機構において生きる人間は、ごく限られた範囲の事柄にしか関心がないような教育をされる。
中央官庁のキャリア官僚は、国家の土台を形成するという意識をどこかで持っている。彼らは20歳代に、欧米の大学院へと官費で留学する。生活を保障されながら、日本という空間から隔離される。それに対して、地方行政担当者には海外留学の機会は与えられない。彼らには国家の土台を形成するという意識は、ほとんどない。そのような意識は、限られた問題に対する責任とはほとんど関係がない。
具体性を欠いた提言は、ほとんど相手にされない。提言書において哲学的問題の解答を求めることは、意味がない。それは大学内の閉鎖的集団における討論に委ねられる。但し、この討論はほとんど現実的関心から遊離している。
3.「受益者」
提言は受益者を前提にしている。無意識的であれ、意識的であれ、提言によって利益を得る人間がいる。それを明白にすべきである。普遍的国民が受益者であることはまれでしかない。
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