労働は恥?--ニートの原初風景
労働しない若者、中年、壮年、そして老人が増えている。そのうち労働しない若者が「ニート」と呼ばれている。この意味は単なる若者の怠惰性を表現しているわけではない。後期近代において、労働が社会的尊敬を受けなくなったことと関連している。労働するよりも、公営賭博、株式市場等における投機的行為や親族の遺産で暮らすほうが社会的により承認をうけることと関連している。汗水垂らして労働するよりも、財テク等によって稼ぐほうがより社会的に尊敬されることになった。
一方で、後期近代において労働におけるサービス産業の役割が拡大したことによって、サービス産業に従事する労働者の割合が増大した。かつてのこの産業従事者に比較して現在の労働者の賃金はかなり下落している。とりわけ、巨大サービス産業、たとえば巨大スーバーマーケット、巨大ファーストフード店において、一部の管理職を除き現場でサービスに従事する労働者の賃金の下落は著しい。
このような現代社会において、労働をすることは恥という意識が生じることもやむをえない。ある壮年男性が数十年まえに体験したことをここで披露してみよう。それは、彼があるガソリンスタンド労働者として働いている時の体験である。ガソリンスタンド労働者はガソリンを車に入れるだけではない。煙草の灰皿を代え、フロントガラスを拭かねばならない。客に対して愛想をふるまわねばならない。そこで働いている時、トヨタクラウンの最高級車に乗車した彼の同級生がガソリンを入れるためにそのスタンドに入ってきた。当然、彼はその同級生に対して、対等な口を聞く。「よ、元気!」それに対して対等な口をこの労働者がきけるはずもない。
この同級生はいまどきの言葉を使用すれば、ニートであった。父親の車を乗り回していた。しかも、その車は日本の最高級車であり、助手席には今風の彼女が同乗していた。しかし、この労働者は、このニートに対して、卑屈な感情をもったのも事実であった。客観的に言えば、淡々と労働をするだけでよかった。しかし、この青年はそのボンクラに対して劣等感をもったのも事実であった。逆に言えば、今日のニート君もまた、労働者にその種の優越感をもっているのも事実であろう。
| 固定リンク
「経済・政治・国際」カテゴリの記事
- 異邦人ーー煙草による自己疎外の回復(2008.11.11)
- 煙草の効用ーーまあ、一服と殺人の抑止力(2008.11.10)
- 昔、総評、今、禁煙ーー馬鹿が陸軍でやってくる(2008.11.08)
- 煙草一箱1,000円?ーー馬鹿が馬鹿丸出しでやってくる(2008.11.07)
- 大学における禁煙と大麻ーー馬鹿がミクロ的合理性でやってくる(2008.11.06)
トラックバック
この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/126848/17775347
この記事へのトラックバック一覧です: 労働は恥?--ニートの原初風景:
» 「国民経済主義」について [晴耕雨読]
>そこであらためてお願いがあるのですが、今回つかわれた「国民経済主義」というものを、もう一度、なるべく平易な言葉でお話いただけないかと、熱望します。
>できれば、今の状態から移り変わる過程で、どういったこと(可能性であれ、不可能性であれ)が予見されるのかを知りたいです。
国民経済主義は、「経済活動は所得格差はありながらも国民すべてがきちんと生活できるようにすることが目的である」という価値観とそれを現実のものにするための理論です。
「近代経済システム」という枠組から今すぐには離脱できないという現... [続きを読む]
受信: 2008年1月24日 (木) 18時06分


コメント
ごむさたしていています。このごろ、ブログ更新が滞っています。
ところで、興味深いコメントありがとうございます。参考にさせていただきます。
とりわけ、老人の失業者の問題ありがとうございます。勉強してみます。
今後とも宜しくお願いします。
投稿: ichiro | 2008年1月23日 (水) 10時01分
ご無沙汰しております。上の説明は端的でよく理解できます。
「卑屈な感情をもち、劣等感をもった事実」は、サーヴィス分野での「淡々と労働」するマニュアル化や非技能化に基づいていて、ロボット導入や無人セルフ化によって初めてその存在意義が知れることがあるかも知れません。
特に広くブジネス分野での卑屈な感情は、日本の歴史的な背景によって生み出されている面が多いとすれば、これは現在の日本の問題をよく映し出しているようで、まさに「労働は恥」でしかないでしょう。
少し話題が変わりますが、「老人の失業は、今後統計上失業に入れない」と言う判断が今こちらで話題となってきているようです。
投稿: pfaelzerwein | 2008年1月23日 (水) 00時11分